響く、響く。
悲鳴が響く。
泣き声が響くよ。
叫び声が響くよ。
愛する人に腹を引き裂かれ、内臓を引っ張り出されても。
私はただ愛のために叫ぶの。
ただのお人形遊びでしょうけれど。
アナタにとってはただのお人形遊びでしょうけれど。
私にとってはアナタは全て。
アナタは私の全て。
たとえ、アナタが私を必要としていなくても。
私の名前を知っているでしょう?
アナタが私を捨てていっても。
私は他の誰か。
私を必要としている誰かに、まとわりついていくわ。
とろり、とろりと。
一瞬だけ目の端に見えたごく小さな水晶玉。
赤い髪。
褐色の目。
サソリ様・・・。
やっぱりアナタは私を置いていくのね。
人形を。
この、悪趣味な瑠璃人形を。

****
「うるさい、俺は忙しいんだ。
さっさと仕事にもどれ」
「だだだだ、だからっ!隊舎から変な女の叫び声が・・・!!」
「泣かした女の怨念だろ」
「そんなタチの悪い女を相手にした憶えはないじゃん!」
大変迷惑そうに風影室を覗いている上役達を堂々と無視して傀儡部隊第三隊の隊長は風影の脚にしがみついて叫び散らしていた。
「じゃあ、泣かされた女」
「俺は女を泣かしても泣かされたことはないじゃん!」
「ほら見ろ」
「違うんだって!泣いてもすぐに殴りかかってくるんだって!」
「わかった、だからお前は三カ月おきくらいに傷だらけで帰ってくるんだな」
「わかってくれたっ?!
じゃあ、明日の当直俺じゃなくて他の人に回して!」
「そんなことをしたら兄弟間の贔屓に思われるだろう。
皆の信頼を損ねたくない」
「ちょっとくらいっ!
ね、お願い!」
「無理。
それとさっさと降りろ。千切れる」
「千切れろ!千切れてしまえ!
こんなに怖がっている兄を放っておくような悪い弟の脚なんか千切れてしまえ!」
あ、と風影がまずい、というような顔をしたがときすでに遅し。
風影様親衛隊が窓ガラスを粉々に割り、上役達を押しのけ扉をぶち破って突入してきた。
「あんだと、この歌舞伎顔がぁぁぁぁあっ!」
「私たちの風影様のかわいくてスベスベしたあんよが無くなるってどうゆうことだごらぁぁぁぁっ!豚脚!」
「まっちろ天使さんの身に何か起きたらただじゃ済まさんぞワレェぁっ!」
「あ・・お前達、やめ・・・」
風影が必死になって止めようとするも、親衛隊の皆さんは大変な失言をした傀儡部隊第三隊長を再起不能に追い込もうと聞く耳も持たない。
やっと彼女達の気がすんで帰っていったころには傀儡部隊長は下着一枚になっていた。豹柄の。
「カンクロウ・・・大丈夫か?」
「が・・・あ・・ら・・・。
い、医療班呼んで、医療班。
そして同情して明日の当直を他の誰かに回して・・・」
「医療班は呼んでやるが当直はお前のままだ」
「そんな・・・」
力尽きた兄は弟の言葉に衝撃を受けて気を失った。


****
とろり、とろり。

そう呼んだアナタに巻きついて。
私は今日もまた、この胸いっぱいに空気を吸い込んで。
アナタを呼ぶの。
叫んでも。
叫んでも。
愛しい赤い髪は見れないけれど。

瑠璃人形は、主の帰りを待っている。